写真のような日差しを浴びながら道を歩いていて、知っている人と出くわすと、
「こんにちは、今日は暑いね~」
なんて一言あいさつをしたくなりますよね。
言葉で言うなら簡単ですが、メールやLINE、各種SNSや掲示板への書き込みで挨拶するときに、
「『こんにちは』と『こんにちわ』、どっちだったっけ?」
と思ったことありませんか?
私はあります、それも油断していると未だにあります。
さすがに社会人歴も長くなりつつあるのに、自信を持って正しい言葉遣いができていないと恥ずかしいですよね。
正しい日本語で書かれた文章というのは、読むだけで美しさを感じられる。
私もそういう文章が書けるようになりたいと思い、まずは普段使っている言葉を正していこうと調べてみることにしました。
辞書では「こんにちは」
なんだかもう結論が出たような気がしますが、各種辞書で調べると「こんにち‐は」、「今日-は」とあります。
「今日(こんにち)は良いお天気で」という例文もありましたが、「こんにちは」の「は」は助詞として使われていたもので、それが挨拶として用いられるようになっていき、その名残なんですね。
誤用の例として「こんにちわ」があると紹介しているものまでありました。
これはもう「こんにちは」の方が正しいと確定してしまいました。
ちなみに「こんばんは」も同じ理由でした。
更に文部科学省のサイト内に現代仮名遣いについてのページがあり、
2 助詞の「は」は,「は」と書く。
例 今日は日曜です 山では雪が降りました
あるいは または もしくは
いずれは さては ついては ではさようなら とはいえ
惜しむらくは 恐らくは 願わくは
これはこれは こんにちは こんばんは
と記載されています。
では、以下の場合、どれが正しい文章でしょうか?
いきなりクイズです。
正しく書けている文章はどちらでしょうか?
①朝から忘れ物はするは時間に間に合わないはで大変だったよ。
②朝から忘れ物はするわ時間に間に合わないわで大変だったよ。
私はこういう文章を見ると違和感を感じてしまうんですが、皆さんはどうでしょうか。
自分で出題するために書いたのにもかかわらず、書いていて違和感から気持ち悪かったです。
さて、正解は②の方の文章です。
SNS等でその日の出来事を書き込むときに、クイズで出題したような文章を書くことがあると思うんですが、実際にいろんな人が同じような文章を書いているのを読むと、①の文章になっている人がたまにいると思いませんか?
で、感覚的に①は何かおかしくて、②の方が正しいとは思うんだけど、その根拠は何だろう、と日ごろから考えていましたが、先ほど紹介した文部科学省のサイトの同じページにこんなことが書いてありました。
〔注意〕 次のようなものは,この例にあたらないものとする。
いまわの際 すわ一大事
雨も降るわ風も吹くわ 来るわ来るわ きれいだわ
なるほど、これは根拠というよりも例外として挙げられていて、その結果としてそれに則って文章を書く人が多いから、①の文章に違和感を感じているだけなのかと納得しました。
でも、あれ?なんだか疑問が出てきたぞ。
「こんにちは」は感動詞?
以下はwikipediaの感動詞のページの冒頭の引用です。
感動詞(かんどうし)とは、感動、応答、呼び掛けを表し、活用がなく、単独で文になり得る語である。主語、述語、修飾語になることも他の語に修飾されることもない。間投詞(かんとうし)、感嘆詞(かんたんし)、嘆詞(たんし)とも言う。
この引用した文章を端的に言うと、挨拶に使われる言葉は感動詞だということです。
さっきの文部科学省のサイトでの例外の部分に、「きれいだわ」とありますが、これも感動詞ですよね?
「きれいだわ」だと女性が用いる言葉遣いのように聞こえますが、「面白かったわ~」のように男性でも使っています。
これ、間違っても「面白かったは~」なんて書かないですよね。
「こんにちは」は辞書の例文にも載っていたように、元々は助詞の「は」が使われていて、文部科学省のサイトにもあったように「助詞の「は」は、「は」と書く」とあるから一時は納得しましたが、それは元々の名残であって、
現在では挨拶に用いる感動詞として使われているのであれば、仮に「こんにちわ」でも間違いではないのではないか
と疑問に思いました。
ならばと、挨拶が感動詞に含まれるようになったのはいつからだろうと調べてみました。
すると、
学校図書では『中学校国語 二』(1986年文部省検定済,1987年1月)36が,感動詞の分類のひとつにはじめて「あいさつの気持ちを表すもの」を含めている
という記載がある「駒沢女子大学 研究紀要」(リンクはPDF形式です)を発見。
更にその研究紀要には
このように,「挨拶語」ということばを使うか否かについてはゆれがあるが,後の年代になるほどに,感動詞の一類に挨拶語を含める教科書が増えてゆく。
ただ,同時期に一斉に記述が変化したということはなかった。
なお,現行の教科書にいたるまで一度も「感動詞」と「あいさつ」とを関連付けていない出版社もある。
また,一度「あいさつ」を含めるも,のちの改訂で除外し,さらにその後の改訂であらためて「あいさつ」に言及する,という経緯をたどっている出版社もある。
以上のとおり,「あいさつ」に関する語は、学校文法においてもゆれのある存在である。
以上が学校教育での話で、以下は同じく「駒沢女子大学 研究紀要」の国語辞書での感動詞の扱いについて。
現代における代表的な大型国語辞書である『日本国語大辞典』の第二版(2000-02年,注9参照)では,「感動詞」について,「挨拶(あいさつ)に用いる語(おはよう・しっけい)」などを含めることもあるとしている。しかし,「おはよう」を感動詞として,「相手が早く出てきたことに対する挨拶のことば。」,および「朝はじめて会った時の、挨拶のことば。」という語釈を示す一方で,「しっけい」は,語釈のひとつに「別れるとき,人の前を通るときなどに挨拶(あいさつ)として発する語。多く男性が感動詞的に用いる。ごめん。」を挙げながらも,品詞としては名詞である。
さらに,「こんばんは」の語釈は「夜間,他家を訪問したとき、また,人に会ったときにいう挨拶語。」となっているが,品詞は「連語」となっており,感動詞とはされていない。
とあります。
つまり、学校教育で近年になって挨拶語を感動詞に含むようなってきているが、それは誰かが取り決めたものではなく、非常に曖昧なものであるということ。
そしてそれは学校教育内に収まらず、辞書でも挨拶の言葉が感動詞になるかどうかの線引きが非常に曖昧になっています。
要するに、「挨拶に使われる言葉は、明確に感動詞だと定義されていないので、感動詞と断言できるものではない」ということです。
いつか「こんにちわ」が正しくなる日が来る?
挨拶に使われる言葉が感動詞と定義されていないから、元々の語源からの名残で助詞の部分を「は」のままとして使用する、というのが現在のところの正解でしょう。
文部科学省のサイトより引用した「助詞の「は」は、「は」と書く」という基準が適用されてしかるべきです。
ですが、今後もし挨拶語が感動詞として定義されることになった時には、昔から受け継がれてきた名残であっても、それだけを根拠にして「『こんにちわ』は間違い!『こんにちは』が正しい!」とは言えなくなってしまう可能性があるのではないでしょうか。
その趣深い昔の言葉の名残にどれだけの価値を見出せるか、いざそういうことになった時に、そこに重きを置くことができる人がどれだけいるかが焦点になってきそうですね。
『こんにちわ』撲滅委員会なるサイトもあって、従来の正しい用法を良しとする根強い方々がいるなら安泰かな?
結論
感動詞や繰り返しの言葉(来るわ来るわ等)は「わ」を使うが、「こんにちは」「こんばんは」は助詞の「は」が由来なので「は」を使うのが正しい。
でもいつか、「こんにちわ」「こんばんわ」になるかも?